2017-103M 「エル ELLE」☆☆☆★

邦題:エル ELLE
時間:131分
公開:2017-08
製作年度:2016
製作国:フランス
配給:ギャガ
製作総指揮:
製作:サイード・ベン・サイード、ミヒェル・メルクト
監督:ポール・バーホーベン
脚本:デビッド・バーク
原作:フィリップ・ディジャン
撮影:
音楽:アン・ダッドリー
出演:イザベル・ユペール(ミシェル)、ローラン・ラフィット(パトリック)、アンヌ・コンシニ(アンナ)、シャルル・ベルリング(リシャール)、ビルジニー・エフィラ(レベッカ)、ジョナ・ブロケ(ヴァンサン)
妖艶な美女に翻弄され、自分の人生が地獄に堕ちてしまうかもしれない。しかも徹底的に腹黒い魔性の女であればあるほど、男は夢中になっていく。そんな自己破滅型恋愛の「妄想」は劇場のスクリーンの中では可能なのだ。「めまい」「白いドレスの女」……これまで幾多もの蠱惑的なヒロインが、観客の心を鷲掴みにしてきた。
鬼才ポール・ヴァーホーヴェン監督は、そんな“魔性の女”を描かせると天下一品である。悪趣味の域にまで達した、エロティックな描写やバイオレンスシーンの演出は、新作が発表される度に賛否の激論が巻き起こる、恐るべき老監督なのだ。本作は昨年のカンヌ映画祭で大喝采を浴びつつ、物議を醸したエロティック・サスペンスである。もちろん主人公は、想像を絶するキャラクターに造形された美女だ。
大ヒットしたテレビゲームを作っている会社の敏腕女社長ミシェル(イザベル・ユペール)は、ある日自宅に侵入してきた覆面男にレイプされてしまう。一報を聞いた友人たちは、警察へ通報することを勧めるが、なぜか彼女は何事もなかったように、今まで通りの日常を続ける。しかし、まるでその生活を監視しているかのように、犯人らしき者からの様々なメッセージが届き始める。犯人は身近にいると感じた彼女は元夫、恋人、部下、隣人、全てに対して疑惑の目を向けていく。ところが、その正体を突き止めようとする過程で露わになっていく、ミシェルの不道徳極まりない性への欲望と衝動、そして過去の驚愕の事件も相まって、予想もしない展開を見せはじめる。遂に明らかになった、レイプ事件の真犯人とミシェルに衝撃の結末が待っていた・・・。
ピカソやブラックを代表とするキュビズム(立体派)の絵画は、さまざまな角度から見た対象を二次元のキャンバスに投射した、二十世紀の芸術の革命だった。本作のミシェルの造形は、ヴァーホーヴェン監督によって彼女の様々な状況(角度)においての“ミシェル像”がキュビズム的に描かれ、まさに天使にも悪魔にも、そして娼婦にさえ見える映画に完成されている。
「若い男と同棲する母親に対しての、娘としてのミシェル」、「性悪女に捕獲された気弱な息子に対しての母、姑としてのミシェル」、「親友の夫と不倫している自分自身」。それぞれの状況でミシェルが見せる多種多様な側面は、観客にとっては、意識が連続していない多重人格者とさえ思えてしまうだろう。やがて、主題となるレイプ被害者であるはずの彼女が、警察を信じず通報しない理由、常軌を逸した自堕落な性愛の振る舞い、それらを突き動かす意識の根源に、幼女期のトラウマが通奏低音のように支配していることが明かされていく。腹の底にいくつもの思いや、事件以上に恐ろしい主人公の本性を籠めて演じた、イザベル・ユペールの並外れた演技力は神懸かっている。彼女がさまざまな映画賞で高く評価されたのも頷ける。
ヴァーホーヴェン監督の描く、道徳から解き放たれた“魔性の女”で、忘れられないのが「氷の微笑」(九二)でシャロン・ストーンが演じた謎の美女だ。殺人事件の真相を追う刑事が怪しいと睨んだ、被害者の恋人役の彼女が、刑事を誘惑する妖艶なシーンが話題となった。この作品で、シャロン・ストーンは一躍世界的なセックス・シンボルに躍り出た。
「氷の微笑」で、男を狂わせる美貌で事件を翻弄していく、魔性の女を生み出したヴァーホーヴェン監督。あれから二十五年、さらに進化した“こいつとなら一緒に地獄に堕ちていい”と妄想させるパワーを増幅させ、常識を覆す、究極のヒロインを創り上げた。
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